この話の続きです。
事件は一応解決しましたが、ネットワーク探偵の表情が晴れることはなかったのです。
スコットランドヤードに協力要請
金曜日の午後5時より少し前。
だいぶ疲れてきた私は、大人しく捜査本部(サポートデスク)の助けを借りることにした。
「もしもし。新転任の先生だけ NAS に繋がらないのですが」
「接続できない人を手動で NAS に追加することになると思います」
(えぇ、めんど)
「もしくは NAS の名前がおかしいのが原因かもしれません。変更してください」
「そうしたら今繋がっている人の接続が切れませんか?」
「切れますよ」
「それは困るので、週明けに職員に周知してから変更します」
「そうですね……あっ、もしかしたら……ちょっとリモートで見てみますね」
「(見るだけならいいか)お願いします」
密室
黒い画面に「リモートで作業中。操作しないでください」の文字。カーソルの動きだけが捜査の進展を私に伝える。
スクリーンにロックがかかっており、気配は感じるが中の様子を知ることはできないこの状況。いわゆる密室である。
午後6時過ぎ。一時間ほどしてようやく密室の鍵が開き、私は再びデスクトップを目の当たりにする。そして叫ぶ。「NAS に繋がらない!」
そこかしこで悲鳴が上がる。「提出書類が!」「授業プリントが!」これまで繋がっていた人まで繋がらなくなっている模様。ベーカー街(職員室)は恐怖に染まった。
どうやらスコットランドヤードの警部たちが、週明けを待ちきれずに作業に取り掛かったらしい。やけに時間がかかったのはそのためか。
だが焦ることはない。いくら受付時間を過ぎているとはいえ、今日ばかりは残って仕事をしてくれているはずだ。やめてくれと言った作業に中途半端に手を付けて、NAS を使えなくするだけして帰宅するような警部たちではないはずだからね。今でもロンドン警視庁では決死の捜査が続いていることだろう。
念のため電話を……出ない。
帰ったな。
ああ無情。
まだ職員室に残る先生たちに事情を話し、土日の間は復旧の見込みがないことを伝え、一通り困ったところでみんな諦めて切り上げたのでした。
事件の真相
週明け。
確認の電話を入れると警部が「やっておきましたよ」みたいなことを言うので「やってしまいました」の間違いだろうと思いつつ、状況を説明して慌てさせる。しばらくのち、とりあえずこれまで繋がっていた人たちは使えるようになった。元の木阿弥。
今後どうしたらいいか聞くと、接続できない人を手動で NAS に追加するしかないと返される。そういえばそう言っていたな。
「どうやら」と警部が切り出す。「説明書に書いてあったのですが、NAS に自動で追加できるユーザ数は1,000人までらしく、県内の教員は1万人以上いるので、自動追加機能が働かなかったのではないかと」
NAS に接続するためのドメインユーザは、捜査本部(サポートデスク)が県内の全職員分を一括で作成してくれているが、如何せん数が多いもので、一万人分のユーザを一度に渡されて NAS が処理しきれなくなったわけだ。
私の方でも説明書を確認する。ほんとだ。書いてある。
書いてあったが見落としていた! これが叙述トリックか!
残る謎
1,000人を超えているから自動追加機能が動作しないのはわかった。しかし、それならなぜ昨年度は上手くいったのだろうか。昨年度も県内の教員は1万人以上いたはずである。
https://taidalog.hatenablog.com/entry/2021/05/03/103000#昨年度は新転任者も全員接続できた
教訓
- 困ったらまずマニュアルや説明書を読もう。
- やめてほしいことは具体的な理由や代替案を添えてはっきり伝えよう。